長岡鉄男

長岡鉄男のオーディオ論を貫く最大の特徴は、コスト・パフォーマンスを最重要視する評価軸にあります。高価で完成度の高い製品よりも、限られた条件の中でどこまで本質に迫れるかを重視し、「オーディオは音量である」「アンプは重量である」という明快な指標を提示しました。そのため設計には明確な割り切りが存在します。音のリアリティを左右する要素として音離れ(トランジェント)を最優先し、多少の歪み感は容認します。位相の整合性を重んじ、フルレンジユニットを中心に構成し、ネットワークはハイパス・コンデンサーのみに抑えられました。エンクロージャーには後面開放型のバックロードホーンが選ばれています。このような設計思想の背景には、「音を論じて音楽は論じない」という長岡独自のスタンスがあります。音楽的感想を語る以前に、音そのものの物理的挙動を突き詰める。その姿勢こそが、評論と自作を結びつけた長岡鉄男の独自性と言えます。

戦後の混乱期から高度経済成長、そしてオーディオ黄金期へ。

長岡鉄男は「測定と実践に基づく批評」を掲げ、独自の道を切り開いたオーディオ評論家です。感覚や印象論に依存することを嫌い、測定データと自らの聴取経験、さらには自作スピーカーの実音を照らし合わせながら、「本当に良い音とは何か」を生涯にわたって追求し続けました。

評論家として本格的に活動を開始すると、その文章はたちまち注目を集めます。辛辣で歯に衣着せぬ物言いでありながら、驚くほど論理的で正確。作家ならではの筆力とユーモアに富んだ文体、そしてメーカーに媚びない独立した批評姿勢は、多くの読者から圧倒的な支持を得ました。高価な製品を無条件に礼賛することはなく、コストパフォーマンスに優れた廉価製品を積極的に評価・紹介した点も、長岡の大きな特徴です。自作スピーカーの工作記事や輸入盤レコードの紹介などを通じて、オーディオ文化の裾野を大きく広げました。その功績は計り知れません。生涯に発表した自作スピーカーの設計は600種類以上に及び、保有したレコード、CD、LDの総数は約5万枚に達します。とりわけスピーカー工作の分野では比類なき存在として知られ、その思想と実践に共鳴する熱狂的な支持者は、いつしか「長岡教徒」と呼ばれるようになりました。

主な著書に『実用のオーディオ』『長岡鉄男の傑作スピーカー工作』『長岡鉄男のいい加減にします PART I~V』『長岡鉄男のディスク漫談』(音楽之友社)、『オーディオA級ライセンス』『長岡鉄男のオーディオ・クリニック』『長岡鉄男のスーパーAV〈ホームシアターを作る〉』『喝!』(共同通信社)など多数があります。

2000年5月29日死去。享年74。
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